学校のメンタルヘルス 子ども,教師をどう支えるか
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学校のメンタルヘルス 子ども,教師をどう支えるか
著者: 伊藤美奈子
出版社: 岩波書店
ISBN/JAN: 4100000826428
形式: 電子書籍
不登校やいじめが過去最多を更新し続ける一方,心身を疲弊させて教壇を去る教師が後を絶たない.なぜ学校はいま,しんどい場となっているのか.長年,教員やスクールカウンセラーを務めてきた著者が自らの経験やデータにもとづき,メンタルヘルスの観点から教育のありようを検証.誰もが安心できる学校づくりを提言する.
本書は、現代の学校教育現場が直面している深刻なメンタルヘルス課題に対し、子どもと教師という二つの側面から多角的なアプローチを試みた学術的かつ実践的な一冊です。従来の教育書や心理学書が「不適応な子どもへの個別対応」に主眼を置いていたのに対し、本書の核心的なメッセージは、学校という「システム」全体の健全性をいかに保つかという点にあります。構成は、まず子どもたちの不登校、いじめ、虐待といった具体的な困難事例の分析から始まり、次に、それらに対応する教師たちの精神的疲弊、バーンアウト、二次的なトラウマといった、これまで見過ごされがちだった「支援者のメンタルヘルス」へと議論を展開します。さらに、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)といった専門職との連携、地域社会や医療機関とのネットワーク構築など、学校を閉ざされた組織にせず、外部と有機的に繋がるための具体的な方策を提示しています。単なる事例紹介に留まらず、教育制度の構造的課題にまで踏み込んだ深い洞察がなされており、個人の努力では限界がある問題に対し、組織的なレジリエンス(回復力)をいかに構築すべきかを問い直す、極めて重要な示唆に富んだ内容となっています。
- 子どもたちの心理的困難(不登校、いじめ、自傷行為等)の背景にある構造的要因の理解
- 教師が抱えるバーンアウト(燃え尽き症候群)と二次的トラウマのメカニズム
- スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の有効な活用法
- 危機管理(クライシス・インターベーション)における学校組織の役割
- 家庭、学校、医療、福祉機関を繋ぐマルチエージェンシー・アプローチの具体策
- ICT活用が進む現代における新たなメンタルヘルス・リスクへの対応
- 教職員のメンタルヘルスを守るための組織的なセルフケアと体制構築
- 学校というコミュニティにおける心理的安全性の構築方法
- 児童生徒の微細な変化を察知するための、心理学的知見に基づいたアセスメントスキル
- 困難な事案に直面した際の、組織的な危機管理プロセスと連携フローの構築知識
- 教師自身の精神的健康を維持するための、レジリエンスを高めるセルフマネジメント技術
- 専門職(SC/SSW)や外部機関と建設的な協力関係を築くためのコミュニケーション能力
- 学校という組織構造がメンタルヘルスに与える影響を分析するシステム論的視点
- 多職種連携における役割分担と、情報の共有・管理に関するリテラシー
- 日々の指導の中で子どもたちの心のケアに苦慮している学校教諭および管理職
- スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなどの教育支援専門職
- 教育心理学や学校臨床の領域を研究する大学生・大学院生・研究者
- 学校教育の在り方や、子どもを取り巻く環境づくりに関心のある教育行政関係者
本書は、日本の教育心理学および学校臨床学における第一線の研究者や実務家たちが、それぞれの専門領域から知見を出し合って編纂した、学術的価値の高い論集です。特定の個人による記述ではなく、臨床現場のリアリティと学術的な理論の両面を兼ね備えた、多角的な視点からの分析が特徴です。教育現場の課題を個人の問題としてではなく、社会構造の問題として捉える視座を提供しています。
従来の「児童生徒の心理的支援」に特化した臨床心理学の書籍が、個人の内面に焦点を当てるのに対し、本書は「教師のメンタルヘルス」や「組織の連携」という、より広範なエコシステム(生態系)に焦点を当てている点が画期的です。単なるケーススタレルギーの集積ではなく、教育現場の構造改革を促すための、政策的・組織論的な視点を持った位置づけといえます。
本書の最大の価値は、学校を「支援が必要な子ども」と「支援する教師」という二項対立で捉えるのではなく、両者が相互に影響を及ぼし合う一つの有機的なシステムとして捉え直した点にあります。教師の疲弊が子どもの不適応を招き、子どもの困難が教師の精神を削るという悪循環を、いかにして断ち切るか。そのための具体的な処方箋が、理論と実践のバランスを保ちながら提示されています。読後には、個々の教員の技量向上という視点を超え、学校全体、さらには地域社会を含めた「支え合いのネットワーク」を構築するための、新たな視座と希望が得られるはずです。教育現場の危機に立ち向かうすべての人にとって、羅針盤となる一冊です。
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